初めての方はカテゴリから説明へどうぞ。
古い小説から最近のまでおいてあります。
古いのはなんだか恥ずかしいのでいつ消すかわかりません。

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『景吾はピアノが上手なんやね』
『ガキの頃からやってるからな』
黒く光るグランドピアノの前に座るのは、自分の主人。
そして自分の恋人だ。
昨夜結ばれたばかりの恋人。
奏でる曲は、平均律の第一番。
その上で景吾が歌うアヴェマリア。
朝の静かな屋敷に響く歌声と、ピアノの音と。誰もが聞き惚れていた。
景吾の存在すら消えかけていた屋敷中に、それは響いた。
『目ェ見えへんのに、弾けるん?』
『音が聞こえなくても指揮を振っていた偉大な作曲家だっている。俺は音が聴けるだけまだ救われてる』
諦めや、自嘲ではなかった。
ただそこにある事実を、現実を否定も公定もせずあるがまま受け入れた言葉だった。
景吾の話す様子に、忍足は無意識の安堵を覚えていた。
『お前にこの曲を』
一定の動きを辿っていた指が止まり音が止み、景吾が言った。
これは愛の曲。
波のように上下する音達の上、流れるような旋律が歌う。
時に激しく、優しく、美しい形で動きながら、少しずつ色の変わる曲。
美しいそれは、男が、美しい想い人を描き溜息をつくような。
『お前の顔を見たいとか、いつだって思うんだ』
ピアノを奏でながら、景吾が話す。
『けど、どんなに頑張ったところでそれは見えやしない。でも、何も見えないから、俺とお前がこうして結ばれたなら』
曲が静かに終わる。
『光を失った事を、俺は不幸だとは思わない』
そして二人の愛の歌が始まる。
頼りないと思っていた。今だって目の見えない彼は頼りない。
しかしこうして力強く言ってみせる姿に、あぁ、やはり彼を好きだと、忍足は感じる。
愛しい気持ちに胸がいっぱいになり、忍足は椅子に座る景吾を後ろから抱き締めた。
抱き締める腕が、頬にかかる息が、震えていた。
恋人が泣いている、それはすぐにわかった。
そしてそれが、決して悲しい涙でないことも。
『愛してる、景吾、愛してる…』
『俺も、愛してる。この言葉を自分の耳で聞けるんだ、それだけで俺は幸せなんだ』
壁の向こう側で聞いていた景吾の父も、もはや何も言えなかった。
何物にも優る愛が、そこにあった。
――――光を失えたから
やっとおしまい
『ガキの頃からやってるからな』
黒く光るグランドピアノの前に座るのは、自分の主人。
そして自分の恋人だ。
昨夜結ばれたばかりの恋人。
奏でる曲は、平均律の第一番。
その上で景吾が歌うアヴェマリア。
朝の静かな屋敷に響く歌声と、ピアノの音と。誰もが聞き惚れていた。
景吾の存在すら消えかけていた屋敷中に、それは響いた。
『目ェ見えへんのに、弾けるん?』
『音が聞こえなくても指揮を振っていた偉大な作曲家だっている。俺は音が聴けるだけまだ救われてる』
諦めや、自嘲ではなかった。
ただそこにある事実を、現実を否定も公定もせずあるがまま受け入れた言葉だった。
景吾の話す様子に、忍足は無意識の安堵を覚えていた。
『お前にこの曲を』
一定の動きを辿っていた指が止まり音が止み、景吾が言った。
これは愛の曲。
波のように上下する音達の上、流れるような旋律が歌う。
時に激しく、優しく、美しい形で動きながら、少しずつ色の変わる曲。
美しいそれは、男が、美しい想い人を描き溜息をつくような。
『お前の顔を見たいとか、いつだって思うんだ』
ピアノを奏でながら、景吾が話す。
『けど、どんなに頑張ったところでそれは見えやしない。でも、何も見えないから、俺とお前がこうして結ばれたなら』
曲が静かに終わる。
『光を失った事を、俺は不幸だとは思わない』
そして二人の愛の歌が始まる。
頼りないと思っていた。今だって目の見えない彼は頼りない。
しかしこうして力強く言ってみせる姿に、あぁ、やはり彼を好きだと、忍足は感じる。
愛しい気持ちに胸がいっぱいになり、忍足は椅子に座る景吾を後ろから抱き締めた。
抱き締める腕が、頬にかかる息が、震えていた。
恋人が泣いている、それはすぐにわかった。
そしてそれが、決して悲しい涙でないことも。
『愛してる、景吾、愛してる…』
『俺も、愛してる。この言葉を自分の耳で聞けるんだ、それだけで俺は幸せなんだ』
壁の向こう側で聞いていた景吾の父も、もはや何も言えなかった。
何物にも優る愛が、そこにあった。
――――光を失えたから
やっとおしまい
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プロフィール
HN:
詩子
年齢:
37
性別:
女性
誕生日:
1987/08/13
職業:
学生
趣味:
買い物・音楽鑑賞
自己紹介:
小説や日記、小ネタ等を投下していくヲタクなブログです。サイトの代わりに運営しているのでコメントやメッセージは大歓迎です。
リンクについては同人サイト様につきフリー。報告や連絡いただければそちらにも遊びにいきます♪
コメントするのが嫌だわ、というシャイなお嬢さんは(笑)
utagawa_hikaru☆hotmail.com
(☆を@に変えてくださいね)
こちらまでご連絡ください!
ジャンルはサイトをやっていた頃とほとんど変わりませんが…
テニス(忍受け、跡受けなど)
サガフロ(いろいろ)
もしかしたらアイシ(阿雲)
オリジ(気が向けば)
…こんな感じです。
同志様は是非仲良くしてください!
何かありましたらお気軽にご連絡を。
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