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初めての方はカテゴリから説明へどうぞ。 古い小説から最近のまでおいてあります。 古いのはなんだか恥ずかしいのでいつ消すかわかりません。



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ややえろあり



『跡部!見て見て、海、海見えるでー!』

どうして俺様がこんなノロイ電車に、それもローカル線に乗っているか。
どうして海が見えるようなトコロまで来ているか。恋人のお願いとあっては仕方がないのだが。


【温い湯の中で】



『俺な、海が見えて、ちょっと田舎の、小綺麗な旅館に泊まりに行きたいねん』

また一体どうしたかは知らんがまず確実に映画に影響されたのだろうとは思う。
九月の連休前にいきなりすっとんきょーなお願いをしてきた恋人。
こいつが俺にモノ頼むなんてあんまりないから今回はきいてやることにした。
雰囲気出ないからとか言って車出すことは断固拒否。おかげで今に至る。

『跡部…なんか機嫌悪い?やっぱりこないなんおもろない…?ごめんなぁ、俺が我儘言ってもうたから…』

『はぁ?別にそんなことねぇよ…気にしすぎだ』

こいつはこうやって、はしゃいでいたかと思えば急に殊勝になったりするもんだから困る。
申し訳なさそうに見つめてくる瞳に、慌てて笑顔を繕ってやった。

電車の窓から見える景色は何年も前に両親に連れていってもらった場所に、まだ俺が幼かった頃見た景色に似ていた。
最近じゃすっかり話もしなくなった。
遊んだりなんかするはずもない。旅行になんて行くはずもない。
食事すら一緒にはとらなくなった両親を頭に描けば、なんとなしにしか顔が浮かばないことに気付いた。
俺にそんなものは必要ない。俺は跡部の後継ぎじゃあない。言いなりにはならない。
俺はあいつらが思っているほどイイ子ではない。
殴り合いの喧嘩だってする。暴言だって吐く。ましてや男と付き合っているような異端児だ。
だがしかし、縛られまいとしているはずが、成績でも部活でも、常に上に、常に完璧であろうとするのは、
それはやはり縛られているからなのだと、己の性質の一部が、すでに跡部に植え付けられたモノなのだと思わせる。

『跡部やっぱり顔色悪い』

余程難しい顔をしていたのだろうか。
心配して声をかけてくるこいつに、俺はもしかしたら愛情だけでなく、父性とか母性とかをいっぺんに求めているのかもしれない。

『心配ない…ほら、着いたぞさっさと降りろ』

目的地のある駅は、少し歩けばすぐに浜辺に出れるような所にあった。
駅を出るなり、人のいない静かな夕方の浜辺を見て恋人が幸せそうな溜め息を洩らした。

俺の口からは溜め息すら洩れない。
夕日に染まった海でさえ、鮮やかなオレンジさえ、
感傷を、寂しさを、父性への欲求を、母性への欲求を、愛を求める子供っぽい感情を、あの頃の思い出を、増長させるだけで。

『ココまで来て疲れたな、早いとこ宿まで行くぞ…』

恋人の方を振り向けば、オレンジに染められたその顔に、この人が母親だったらなんて馬鹿みたいな感情が溢れた。

『お待ちしておりました、忍足様ですね?』

宿に着けば小綺麗な旅館の小綺麗な女将が出迎えてくれた。


『あんな、跡部。ここ、個室に露天風呂ついとるんやって!海が見えんねん!』

こういう時はこの恋人はえらく元気だ。気に入ったものには目が無い。
風呂に入って気持ちも洗い流せ。そうだそれでいい。

『今更なんで恥ずかしがるかなぁお前は…』

『うるさい!恥ずかしいもんは恥ずかしいんや』

風呂に入ろうと言ったのは自分のくせに、いざ裸になれば恥ずかしいなんて。どこまで可愛いんだお前は。
少し熱めの湯に、向かい合って浸かる。でかい男が二人座ればさすがに狭かったようだ。
脚が絡まったりぶつかったり。そしてソレを見て二人で笑う。

『なぁ、今日一日跡部ずっと難しい顔しとった…なんか、やなことあったん?』

少し顔を寄せて聞いてくる恋人に、まず何を求めればよいか。
今の俺から何か与えるのは不可能。だから求めるまでなのだ。

『俺はまだまだガキだ…』

苦笑して、ようやく溜め息の一つも吐いて、意味を伝え得ない言葉を吐いて。
なのにどうしてお前がそんな顔をする?ふざけるな、辛いのは俺の方だ。

『跡部、ホンマにどないしてん?どっか痛い?苦しい?なぁ、せっかく二人で旅行やのに…なして泣くんよ…!』

『……ちょっと両親のこと思い出しただけだ』

妙なとこで鋭い恋人が、大きな水音をたてて、切れ長の目を潤ませて、俺を見つめて、頭の後ろに手をまわして引き寄せて。
そして強く強く、俺の顔を胸に抱いた。

『母さんはいつだって綺麗にしてて、けど俺はその綺麗さが好きじゃない。あの人は女だが、跡部の妻だが、あれは母親と思えない。父さんは…

『もうええ!もうやめたって…跡部かわいそやんか…俺もう聞きとうないよ…』

情けなく頼り、久しぶりに泣き、愛情を渇望する心に、ただ求むるそれを与えてくれる恋人に、いつか俺も返してやらねばならない。

『我儘言うてええし、なんだってしたるし……っん』

母さんのように、父さんのように、色の薄れることのないように、逃がさぬように、体と心に繋ぎとめろ。
深く深く、落ちる夕日が見つめるなか、恋人の口を塞いだ。

『はぁっ…ん、好きにしてええよ…ひどくしたって構わんから…あっ、あ…』

返事をやる余裕もなく、自身を握り、扱きあげ、先走りを指に絡めて中に埋める。
相手の喘ぎと、湯が跳ねる音と、二人分の荒い呼吸と、遠くに聞こえる波の音と…
ろくに慣らしもせずに、焦ったように自身を突き立てれば、身体の軋む音が。

『いっ!あ、け…ご…んぁ…や、だいじょうぶ…?』

痛みに、僅かばかりしかない快感に、俺への想いに、涙を溜める恋人に、痛みばかりを与え、愛情の与え方すら知らず、それを貰うばかりの情けない俺を、捨てないでほしいと、自信もプライドも投げ捨てて、ひたすらに祈った。

『頼む、から…努力するから…お前だけは、母さんや…父さんみたいには…』

『なんも頑張らんでええ!お前、…あ、ぁ…何もかも溜め込みすぎや…ん…大丈夫やから…ぁ…』

いつからだ、母さんがただの女になったのは、父さんがただの男になったのは。
仕事仕事仕事。仕方のないのは分かっている。
だが、俺はまだ子供なのだと信じたい。まだ、愛が欲しい。

『あっ…愛しとるよ…ん…景吾っ…ああっ!』

愛していると、その言葉に胸がいっぱいになり、欲望が膨張し、そして罅ぜた。
すっかり日が落ちた空に、月がぽつりと浮かぶ。
ロマンチックとは言えないが、少しは風情があるだろう。
夕日に見送られはじまった情交を月に見守られて終えた。
相手をぎゅっと抱き締め、せめて彼だけは一生色褪せないことを祈る。
愛していると、互いに何度も呟き、互いに唇を合わせ、呼吸すら忘れるほど愛し合い、
しかし二人でならばこの湯にこのまま溶けて流れていけるのが今の俺には一番幸せかもしれない。

君を一生感じていたくて、
繋がりを解かぬまま、
ぬるくなった湯の中で、
死んでしまえたら…
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女性
誕生日:
1987/08/13
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買い物・音楽鑑賞
自己紹介:
小説や日記、小ネタ等を投下していくヲタクなブログです。サイトの代わりに運営しているのでコメントやメッセージは大歓迎です。
リンクについては同人サイト様につきフリー。報告や連絡いただければそちらにも遊びにいきます♪
コメントするのが嫌だわ、というシャイなお嬢さんは(笑)
utagawa_hikaru☆hotmail.com
(☆を@に変えてくださいね)
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テニス(忍受け、跡受けなど)
サガフロ(いろいろ)
もしかしたらアイシ(阿雲)
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…こんな感じです。
同志様は是非仲良くしてください!

何かありましたらお気軽にご連絡を。
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