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『ハァッ、ハッ…侑士、侑士…』

『景、吾…アァッ…ぁ、愛し、てる…好き…大、好きや…‥』

君の顔は見れないし、君の身体も見れない。
けれど熱が声が、俺を掻き立てる、上り詰める。

『愛してる、愛してる…』

もっと、頂戴。


【その時光を失えたら】


『不味い……』

綺麗な眉を寄せて、顔を顰めて、景吾が一言零した。
口にしているのは、夕食のスープ。
テーブルの向かい側に座る忍足は、ひたすら苦笑いだ。

『いやァ…、料理は得意やないねん、堪忍やで』

景吾の一切の世話を任された忍足は、食事の準備までしている。
この状態になってもう一ヵ月経つというのに、忍足の料理の腕は一向にあがらない。

景吾の感想はこうだ。

食べられない不味さではない、だが、旨くもない。

初めてこの感想を聞いた時も、忍足は景吾からは見えないその顔に、苦笑いを浮かべるしかなかった。

『お前は優しいし、よく気が付くけど、料理だけは上手くならないよな』

それから、この一ヵ月で忍足は景吾のことをよく知った。
非常に、我儘である。
弱々しい姿を見せるわりに、その言動はなかなか自分本位で、そして荒々しい。

けれどそんなところもどこか愛しく感じる。
忍足は、景吾が好きであっだ。

『腹も膨れたし、風呂』

椅子から立ち上がり、部屋に備え付けの浴室へ向かう。
部屋の中を歩き回るのはもう慣れたもので、景吾は転げることも、ふらつくこともなく、きちんと歩くことができていた。
不謹慎というか、非常に身勝手な気持ちではあるが、忍足はなんだか少し、そのことが淋しく感じられた。

『風呂、一人で平気か?』

『平気だ。何かあれば呼ぶ』

素っ気ない態度。
忍足はまた、苦笑いを浮かべる。
景吾に愛を与えてやるはずが、自分は景吾に愛を求めてしまっているではないか。
情けない、しかしこれが恋なのだろう、忍足は同時に、納得のいく気持ちも感じていた。



『遅い、なぁ…‥』

景吾がなかなか風呂から出てこない。
心配になった忍足は一言呟いて、浴室へと足を進める。
浴室の曇りガラスのドアの向こう、見慣れたシルエットに声をかけようとして、そこで身が固まった。

『侑、士…ぁ、…ハァっ…』

色のある声。ぴくりぴくりと身悶えている身体。景吾は自慰をしている、らしい。
忍足は、ひどく、ひどく恥ずかしくなって、同時に涙が出そうな気持ちになって。
そしてなにより、自分の下腹部にも熱が溜まるのを感じて、あわてて便所に駆け込んだ。

『景吾…、ホンマかいな…』

まさか彼が自分を?
考えられない、しかし先に見たあの光景に、忍足の心は身体は歓喜している。
困惑、戸惑ったままの心を持て余しながら、けれどいつまでも便所に籠もっているわけにも行かず、忍足は部屋に戻った。

半端に熱を持ったこれは、自分も風呂で抜こう。


『あ…景吾…』

『悪い、のんびり入りすぎた』

風呂から出てきた景吾と、便所から出てきた忍足が鉢合わせになった。
気まずさが顔に出ても、それを読み取られることはない。
この時ばかりは、忍足は景吾の目に感謝した。

しかし、自分には光が見える。
目の前の景吾は腰にタオル一枚巻いただけで惜し気なく肌を晒している。
思わず息を呑む。思わず、喉が鳴った。
忍足は、口元を押さえて、爪先から頭の天辺まで駆け上がる、欲に、罪悪感に、熱に、絶望して、けれど同時に、抑制を諦めた。

『景吾…おいで』

『は?おい…忍足…?』

掴んだ手首は細くて、まだとても暖かく湿っていた。
それすら、自分を煽るだけだ。
アダムとイヴが、禁断の果実を口にしたように、これは甘く甘い罪だ。
罪の意識があるのだから、自分は未だ大丈夫。
言い聞かせて、真っ白いベッドの上、忍足は景吾を組み敷いた。

『何だよ…忍足、なぁ…』

見えない相手は今、何を考えて、何を思っているのか。
不安げに問う。景吾の声は心なしか震えていた。

『俺、景吾が好きや…』

言って、胸板を撫でながらキスをする。唇は、甘かった。
長い間室内に籠もり切りの景吾の肌は、やけに白い。
特別運動をすることもできないから、身体は妙に薄っぺらい。
そんな景吾にその気は無くとも、忍足は欲情できた。
景吾の身体は、十二分に忍足を欲情させた。

『忍足…おし、たり…?嫌だ、なに、してんだよ』

『景吾かて俺が好きやろ?知っとるんやで、見たもん、俺の名前呼びながら、一人でしてたやんか』

途端、白い肌に赤みが挿す。
あからさまに動揺してみせる景吾すら愛しくて、忍足は思わず笑みに顔を歪めた。

『見てた、のか…?』

『ごめんな。ホンマは、見るつもりなんか、無かってん』

口付けと、言葉と。
愛撫と、欲情と。
景吾の身体に触れながら、忍足はそれだけでひどく興奮した。

息を荒げ、乱れる景吾に、あぁ、これを、この画を目に焼き付けて自分も光を失えたら、それはなんて素敵な。

なんと倒錯的な。

『おしたり、おしたりっ…なに、してんだよ…どこ、に…あッ、ぁ…』

目の見えない景吾は、不意打ちのように刺激を与えられる。瞳からは涙がこぼれていた。
忍足は、口に景吾の雄を銜えながら、必死に自身の尻の穴を掻き回していた。
痛い、痛い、痛い。けれど、早く、早く、早く、繋がりたい。

『景吾、も、もうすぐ…やでっ…』

慣らし方は、足りていないだろうな。それはわかっていた。
けれど忍足は景吾を跨いで、陰茎を掴んで支え、一気に腰を下ろした。迎え入れたい、早く。

『アァー―――ッ!あっ、はっ、あ、ア…』

犬のようだ、滑稽であった。しかし、本望だ。
漸く結ばれた身体、その繋がりは嫌な音をたて、光を失った代わりに他人より優れた景吾の聴覚を犯した。
濡れた音、やけに粘着質のあるような、その音。
そしてまるで天井から降るような、悲鳴のような忍足の喘ぎ。
頭がおかしくなりそうだ、景吾は思った。

『おしたり…、侑、士…ゆうし、ゆうし…‥』

忍足が腰を上下させるたび、景吾は切なげにその名を呼んだ。
目の見えない自分にも感ぜられる、この幸せな熱。

『景、吾…アァッ…ぁ、愛し、てる…好き…大、好きや…‥』

降り掛かる言葉は、声は、彷徨い歩き拾い歩いたどんな音より、自分に必要なそれであった。
久しく与えられなかった自分にも、与えることはできるだろうか?
忍足の体内に精を吐き出しながら、その時笑った顔が、景吾は、見えた気すらした。


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1987/08/13
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自己紹介:
小説や日記、小ネタ等を投下していくヲタクなブログです。サイトの代わりに運営しているのでコメントやメッセージは大歓迎です。
リンクについては同人サイト様につきフリー。報告や連絡いただければそちらにも遊びにいきます♪
コメントするのが嫌だわ、というシャイなお嬢さんは(笑)
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…こんな感じです。
同志様は是非仲良くしてください!

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