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古い小説から最近のまでおいてあります。
古いのはなんだか恥ずかしいのでいつ消すかわかりません。

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『………‥、どなた、なんですか…?あれは…』
『あぁ、アレは気にしなくていい、アレはあのまま放っておけばいいんだ』
跡部という名家がある。有名な財閥であった。
その本家の家屋は、いや家屋と呼ぶにはあまりに大きな屋敷は、ひどく静かだ。
使用人もかなり少ない。
そんな家に、この冬雇われたのが忍足侑士だった。
館内を案内され、広い長い廊下を歩いていた際、壁伝いによろけながら歩む青年を見かけた。
恐らく、歳もあまら変わらないだろう、その、青年。
『……けど、なんや様子がおかしい……‥』
『放っておけと言ったら放っておけばいいんだ。お前はただの使用人だろう。深くかかわるな…』
釘を刺され、忍足は仕方なく口を閉じた。
『広すぎやん…、ホンマにここで働けんのか、俺…』
屋敷の案内と仕事の説明とで一日が過ぎた。
忍足は与えられた自室の簡素なベッドで息をつく。
そういえば腹が減ったな、何か食べにいこう。
キッチンに行けば飯が貰えると聞いた。朝、此処に来てから何も食べていない。時間はもう九時過ぎだ。
『飯めしーっと……、あ』
キッチンに向かおうと部屋を出たところで、忍足は昼間見かけた青年を、再び目にした。
相変わらずよろよろと、壁伝いに廊下を歩いている。
『あ、あの…、ええと、自分、大丈夫なん…‥?』
『…‥、聞かねェ声だな…誰だ、お前』
口を開いた青年は、少し言葉遣いが悪かった。
忍足の方に向けられた顔は綺麗で、忍足は、思わず息を呑む。
碧い目は、どこを見ているかわからない。
こちらに近寄ろうとしてまたよたつく青年に、忍足は慌てて駆け寄った。
その身体を抱き留め、声をかける。
『大丈夫か?!』
『悪い…。お前、新しい使用人か何か、か?』
問うた青年が忍足の腕を掴むその手は、ひどく、弱々しく震えていた。
そして碧い目は、やはり何処を見つめているか、わからなかった。
青年の名前は、跡部景吾。
名を聞いた忍足は目を丸くした。跡部の御曹司か何かなのではないか。
では何故、あのような扱いを受けているのか。
『自分、ここの坊っちゃんちゃうの…‥?』
顔を覗き込みながら問い掛ければ、碧い目がぎょろりと動き、こちらを見たように、見えた。
しかしそれはこちらを見ていない、あちらも見ていない、どこも見ていない。
何も、見えていない。
『俺はもう、要らないんだ…悪いが、部屋まで連れてってくれないか?』
景吾が光を失ったのは一ヵ月前だという。
言われるまま連れていった部屋は、荒れ放題。
絨毯の上に花瓶や本が転がっている。景吾は目が見えないのだから、躓いてしまうかもしれない。
忍足は、悲しそうに、辛そうに、顔を歪める。
『腹、減ってへん?俺、なんか持ってくるで?』
景吾をベッドに座らせ、荒れた部屋を片付け、忍足が声をかける。
景吾は慌てて首を振り、見えない相手を探すように、腕で空を掴んだ。
『行くな。行くなら、俺も連れてけ…』
一人は、恐いから。
景吾が、目も見えないのに屋敷を彷徨うのには、理由があった。
部屋でおとなしくしていれば、迷ったり、困ったりはしない。後ろ指さされたりだってしない。
しかし、食事を運ぶ以外に誰もやってこなくなった自分の部屋に一人でいるのは、恐いのだ。
音の無い世界は恐ろしい。
だから、他人の会話も、物音も、誰かが自分を蔑む陰口さえも、聞いていたい。
光を奪われた景吾は、音にすがるしかなかった。
目の見えない、使えない息子を親は愛さない。せめて、自分の存在が消えないように。
いつだって、どんなに転げたって、恐ろしくたって、屋敷を歩き回るのだ。
『久しぶりに、人と話したから…何、言えばいいか、わかんねぇけど…』
手を握って、黙って隣に座っていた忍足に、景吾が戸惑いがちに話し掛ける。
声には色が無いが、表情はどこか嬉しそうだった。
暖かい手が、自分の手を握ってくれている。隣に誰かがいる、自分の存在を、認めてくれている。
『ひどい親やな…。俺、今日からここで働くんや。時間見つけて会いに行く。せやから危ないことせんと、部屋におったらええねん、景吾』
『……ありがとう』
光を失った、景吾の暗闇に、一筋光が射した。
何もうつさないそこから、一筋涙が流れた。
【光の無い家】
光になれへ続きます。
『あぁ、アレは気にしなくていい、アレはあのまま放っておけばいいんだ』
跡部という名家がある。有名な財閥であった。
その本家の家屋は、いや家屋と呼ぶにはあまりに大きな屋敷は、ひどく静かだ。
使用人もかなり少ない。
そんな家に、この冬雇われたのが忍足侑士だった。
館内を案内され、広い長い廊下を歩いていた際、壁伝いによろけながら歩む青年を見かけた。
恐らく、歳もあまら変わらないだろう、その、青年。
『……けど、なんや様子がおかしい……‥』
『放っておけと言ったら放っておけばいいんだ。お前はただの使用人だろう。深くかかわるな…』
釘を刺され、忍足は仕方なく口を閉じた。
『広すぎやん…、ホンマにここで働けんのか、俺…』
屋敷の案内と仕事の説明とで一日が過ぎた。
忍足は与えられた自室の簡素なベッドで息をつく。
そういえば腹が減ったな、何か食べにいこう。
キッチンに行けば飯が貰えると聞いた。朝、此処に来てから何も食べていない。時間はもう九時過ぎだ。
『飯めしーっと……、あ』
キッチンに向かおうと部屋を出たところで、忍足は昼間見かけた青年を、再び目にした。
相変わらずよろよろと、壁伝いに廊下を歩いている。
『あ、あの…、ええと、自分、大丈夫なん…‥?』
『…‥、聞かねェ声だな…誰だ、お前』
口を開いた青年は、少し言葉遣いが悪かった。
忍足の方に向けられた顔は綺麗で、忍足は、思わず息を呑む。
碧い目は、どこを見ているかわからない。
こちらに近寄ろうとしてまたよたつく青年に、忍足は慌てて駆け寄った。
その身体を抱き留め、声をかける。
『大丈夫か?!』
『悪い…。お前、新しい使用人か何か、か?』
問うた青年が忍足の腕を掴むその手は、ひどく、弱々しく震えていた。
そして碧い目は、やはり何処を見つめているか、わからなかった。
青年の名前は、跡部景吾。
名を聞いた忍足は目を丸くした。跡部の御曹司か何かなのではないか。
では何故、あのような扱いを受けているのか。
『自分、ここの坊っちゃんちゃうの…‥?』
顔を覗き込みながら問い掛ければ、碧い目がぎょろりと動き、こちらを見たように、見えた。
しかしそれはこちらを見ていない、あちらも見ていない、どこも見ていない。
何も、見えていない。
『俺はもう、要らないんだ…悪いが、部屋まで連れてってくれないか?』
景吾が光を失ったのは一ヵ月前だという。
言われるまま連れていった部屋は、荒れ放題。
絨毯の上に花瓶や本が転がっている。景吾は目が見えないのだから、躓いてしまうかもしれない。
忍足は、悲しそうに、辛そうに、顔を歪める。
『腹、減ってへん?俺、なんか持ってくるで?』
景吾をベッドに座らせ、荒れた部屋を片付け、忍足が声をかける。
景吾は慌てて首を振り、見えない相手を探すように、腕で空を掴んだ。
『行くな。行くなら、俺も連れてけ…』
一人は、恐いから。
景吾が、目も見えないのに屋敷を彷徨うのには、理由があった。
部屋でおとなしくしていれば、迷ったり、困ったりはしない。後ろ指さされたりだってしない。
しかし、食事を運ぶ以外に誰もやってこなくなった自分の部屋に一人でいるのは、恐いのだ。
音の無い世界は恐ろしい。
だから、他人の会話も、物音も、誰かが自分を蔑む陰口さえも、聞いていたい。
光を奪われた景吾は、音にすがるしかなかった。
目の見えない、使えない息子を親は愛さない。せめて、自分の存在が消えないように。
いつだって、どんなに転げたって、恐ろしくたって、屋敷を歩き回るのだ。
『久しぶりに、人と話したから…何、言えばいいか、わかんねぇけど…』
手を握って、黙って隣に座っていた忍足に、景吾が戸惑いがちに話し掛ける。
声には色が無いが、表情はどこか嬉しそうだった。
暖かい手が、自分の手を握ってくれている。隣に誰かがいる、自分の存在を、認めてくれている。
『ひどい親やな…。俺、今日からここで働くんや。時間見つけて会いに行く。せやから危ないことせんと、部屋におったらええねん、景吾』
『……ありがとう』
光を失った、景吾の暗闇に、一筋光が射した。
何もうつさないそこから、一筋涙が流れた。
【光の無い家】
光になれへ続きます。
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HN:
詩子
年齢:
37
性別:
女性
誕生日:
1987/08/13
職業:
学生
趣味:
買い物・音楽鑑賞
自己紹介:
小説や日記、小ネタ等を投下していくヲタクなブログです。サイトの代わりに運営しているのでコメントやメッセージは大歓迎です。
リンクについては同人サイト様につきフリー。報告や連絡いただければそちらにも遊びにいきます♪
コメントするのが嫌だわ、というシャイなお嬢さんは(笑)
utagawa_hikaru☆hotmail.com
(☆を@に変えてくださいね)
こちらまでご連絡ください!
ジャンルはサイトをやっていた頃とほとんど変わりませんが…
テニス(忍受け、跡受けなど)
サガフロ(いろいろ)
もしかしたらアイシ(阿雲)
オリジ(気が向けば)
…こんな感じです。
同志様は是非仲良くしてください!
何かありましたらお気軽にご連絡を。
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ジャンルはサイトをやっていた頃とほとんど変わりませんが…
テニス(忍受け、跡受けなど)
サガフロ(いろいろ)
もしかしたらアイシ(阿雲)
オリジ(気が向けば)
…こんな感じです。
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