初めての方はカテゴリから説明へどうぞ。
古い小説から最近のまでおいてあります。
古いのはなんだか恥ずかしいのでいつ消すかわかりません。

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『ハァッ、ハッ…侑士、侑士…』
『景、吾…アァッ…ぁ、愛し、てる…好き…大、好きや…‥』
君の顔は見れないし、君の身体も見れない。
けれど熱が声が、俺を掻き立てる、上り詰める。
『愛してる、愛してる…』
もっと、頂戴。
【その時光を失えたら】
『不味い……』
綺麗な眉を寄せて、顔を顰めて、景吾が一言零した。
口にしているのは、夕食のスープ。
テーブルの向かい側に座る忍足は、ひたすら苦笑いだ。
『いやァ…、料理は得意やないねん、堪忍やで』
景吾の一切の世話を任された忍足は、食事の準備までしている。
この状態になってもう一ヵ月経つというのに、忍足の料理の腕は一向にあがらない。
景吾の感想はこうだ。
食べられない不味さではない、だが、旨くもない。
初めてこの感想を聞いた時も、忍足は景吾からは見えないその顔に、苦笑いを浮かべるしかなかった。
『お前は優しいし、よく気が付くけど、料理だけは上手くならないよな』
それから、この一ヵ月で忍足は景吾のことをよく知った。
非常に、我儘である。
弱々しい姿を見せるわりに、その言動はなかなか自分本位で、そして荒々しい。
けれどそんなところもどこか愛しく感じる。
忍足は、景吾が好きであっだ。
『腹も膨れたし、風呂』
椅子から立ち上がり、部屋に備え付けの浴室へ向かう。
部屋の中を歩き回るのはもう慣れたもので、景吾は転げることも、ふらつくこともなく、きちんと歩くことができていた。
不謹慎というか、非常に身勝手な気持ちではあるが、忍足はなんだか少し、そのことが淋しく感じられた。
『風呂、一人で平気か?』
『平気だ。何かあれば呼ぶ』
素っ気ない態度。
忍足はまた、苦笑いを浮かべる。
景吾に愛を与えてやるはずが、自分は景吾に愛を求めてしまっているではないか。
情けない、しかしこれが恋なのだろう、忍足は同時に、納得のいく気持ちも感じていた。
『遅い、なぁ…‥』
景吾がなかなか風呂から出てこない。
心配になった忍足は一言呟いて、浴室へと足を進める。
浴室の曇りガラスのドアの向こう、見慣れたシルエットに声をかけようとして、そこで身が固まった。
『侑、士…ぁ、…ハァっ…』
色のある声。ぴくりぴくりと身悶えている身体。景吾は自慰をしている、らしい。
忍足は、ひどく、ひどく恥ずかしくなって、同時に涙が出そうな気持ちになって。
そしてなにより、自分の下腹部にも熱が溜まるのを感じて、あわてて便所に駆け込んだ。
『景吾…、ホンマかいな…』
まさか彼が自分を?
考えられない、しかし先に見たあの光景に、忍足の心は身体は歓喜している。
困惑、戸惑ったままの心を持て余しながら、けれどいつまでも便所に籠もっているわけにも行かず、忍足は部屋に戻った。
半端に熱を持ったこれは、自分も風呂で抜こう。
『あ…景吾…』
『悪い、のんびり入りすぎた』
風呂から出てきた景吾と、便所から出てきた忍足が鉢合わせになった。
気まずさが顔に出ても、それを読み取られることはない。
この時ばかりは、忍足は景吾の目に感謝した。
しかし、自分には光が見える。
目の前の景吾は腰にタオル一枚巻いただけで惜し気なく肌を晒している。
思わず息を呑む。思わず、喉が鳴った。
忍足は、口元を押さえて、爪先から頭の天辺まで駆け上がる、欲に、罪悪感に、熱に、絶望して、けれど同時に、抑制を諦めた。
『景吾…おいで』
『は?おい…忍足…?』
掴んだ手首は細くて、まだとても暖かく湿っていた。
それすら、自分を煽るだけだ。
アダムとイヴが、禁断の果実を口にしたように、これは甘く甘い罪だ。
罪の意識があるのだから、自分は未だ大丈夫。
言い聞かせて、真っ白いベッドの上、忍足は景吾を組み敷いた。
『何だよ…忍足、なぁ…』
見えない相手は今、何を考えて、何を思っているのか。
不安げに問う。景吾の声は心なしか震えていた。
『俺、景吾が好きや…』
言って、胸板を撫でながらキスをする。唇は、甘かった。
長い間室内に籠もり切りの景吾の肌は、やけに白い。
特別運動をすることもできないから、身体は妙に薄っぺらい。
そんな景吾にその気は無くとも、忍足は欲情できた。
景吾の身体は、十二分に忍足を欲情させた。
『忍足…おし、たり…?嫌だ、なに、してんだよ』
『景吾かて俺が好きやろ?知っとるんやで、見たもん、俺の名前呼びながら、一人でしてたやんか』
途端、白い肌に赤みが挿す。
あからさまに動揺してみせる景吾すら愛しくて、忍足は思わず笑みに顔を歪めた。
『見てた、のか…?』
『ごめんな。ホンマは、見るつもりなんか、無かってん』
口付けと、言葉と。
愛撫と、欲情と。
景吾の身体に触れながら、忍足はそれだけでひどく興奮した。
息を荒げ、乱れる景吾に、あぁ、これを、この画を目に焼き付けて自分も光を失えたら、それはなんて素敵な。
なんと倒錯的な。
『おしたり、おしたりっ…なに、してんだよ…どこ、に…あッ、ぁ…』
目の見えない景吾は、不意打ちのように刺激を与えられる。瞳からは涙がこぼれていた。
忍足は、口に景吾の雄を銜えながら、必死に自身の尻の穴を掻き回していた。
痛い、痛い、痛い。けれど、早く、早く、早く、繋がりたい。
『景吾、も、もうすぐ…やでっ…』
慣らし方は、足りていないだろうな。それはわかっていた。
けれど忍足は景吾を跨いで、陰茎を掴んで支え、一気に腰を下ろした。迎え入れたい、早く。
『アァー―――ッ!あっ、はっ、あ、ア…』
犬のようだ、滑稽であった。しかし、本望だ。
漸く結ばれた身体、その繋がりは嫌な音をたて、光を失った代わりに他人より優れた景吾の聴覚を犯した。
濡れた音、やけに粘着質のあるような、その音。
そしてまるで天井から降るような、悲鳴のような忍足の喘ぎ。
頭がおかしくなりそうだ、景吾は思った。
『おしたり…、侑、士…ゆうし、ゆうし…‥』
忍足が腰を上下させるたび、景吾は切なげにその名を呼んだ。
目の見えない自分にも感ぜられる、この幸せな熱。
『景、吾…アァッ…ぁ、愛し、てる…好き…大、好きや…‥』
降り掛かる言葉は、声は、彷徨い歩き拾い歩いたどんな音より、自分に必要なそれであった。
久しく与えられなかった自分にも、与えることはできるだろうか?
忍足の体内に精を吐き出しながら、その時笑った顔が、景吾は、見えた気すらした。
次で最後
『景、吾…アァッ…ぁ、愛し、てる…好き…大、好きや…‥』
君の顔は見れないし、君の身体も見れない。
けれど熱が声が、俺を掻き立てる、上り詰める。
『愛してる、愛してる…』
もっと、頂戴。
【その時光を失えたら】
『不味い……』
綺麗な眉を寄せて、顔を顰めて、景吾が一言零した。
口にしているのは、夕食のスープ。
テーブルの向かい側に座る忍足は、ひたすら苦笑いだ。
『いやァ…、料理は得意やないねん、堪忍やで』
景吾の一切の世話を任された忍足は、食事の準備までしている。
この状態になってもう一ヵ月経つというのに、忍足の料理の腕は一向にあがらない。
景吾の感想はこうだ。
食べられない不味さではない、だが、旨くもない。
初めてこの感想を聞いた時も、忍足は景吾からは見えないその顔に、苦笑いを浮かべるしかなかった。
『お前は優しいし、よく気が付くけど、料理だけは上手くならないよな』
それから、この一ヵ月で忍足は景吾のことをよく知った。
非常に、我儘である。
弱々しい姿を見せるわりに、その言動はなかなか自分本位で、そして荒々しい。
けれどそんなところもどこか愛しく感じる。
忍足は、景吾が好きであっだ。
『腹も膨れたし、風呂』
椅子から立ち上がり、部屋に備え付けの浴室へ向かう。
部屋の中を歩き回るのはもう慣れたもので、景吾は転げることも、ふらつくこともなく、きちんと歩くことができていた。
不謹慎というか、非常に身勝手な気持ちではあるが、忍足はなんだか少し、そのことが淋しく感じられた。
『風呂、一人で平気か?』
『平気だ。何かあれば呼ぶ』
素っ気ない態度。
忍足はまた、苦笑いを浮かべる。
景吾に愛を与えてやるはずが、自分は景吾に愛を求めてしまっているではないか。
情けない、しかしこれが恋なのだろう、忍足は同時に、納得のいく気持ちも感じていた。
『遅い、なぁ…‥』
景吾がなかなか風呂から出てこない。
心配になった忍足は一言呟いて、浴室へと足を進める。
浴室の曇りガラスのドアの向こう、見慣れたシルエットに声をかけようとして、そこで身が固まった。
『侑、士…ぁ、…ハァっ…』
色のある声。ぴくりぴくりと身悶えている身体。景吾は自慰をしている、らしい。
忍足は、ひどく、ひどく恥ずかしくなって、同時に涙が出そうな気持ちになって。
そしてなにより、自分の下腹部にも熱が溜まるのを感じて、あわてて便所に駆け込んだ。
『景吾…、ホンマかいな…』
まさか彼が自分を?
考えられない、しかし先に見たあの光景に、忍足の心は身体は歓喜している。
困惑、戸惑ったままの心を持て余しながら、けれどいつまでも便所に籠もっているわけにも行かず、忍足は部屋に戻った。
半端に熱を持ったこれは、自分も風呂で抜こう。
『あ…景吾…』
『悪い、のんびり入りすぎた』
風呂から出てきた景吾と、便所から出てきた忍足が鉢合わせになった。
気まずさが顔に出ても、それを読み取られることはない。
この時ばかりは、忍足は景吾の目に感謝した。
しかし、自分には光が見える。
目の前の景吾は腰にタオル一枚巻いただけで惜し気なく肌を晒している。
思わず息を呑む。思わず、喉が鳴った。
忍足は、口元を押さえて、爪先から頭の天辺まで駆け上がる、欲に、罪悪感に、熱に、絶望して、けれど同時に、抑制を諦めた。
『景吾…おいで』
『は?おい…忍足…?』
掴んだ手首は細くて、まだとても暖かく湿っていた。
それすら、自分を煽るだけだ。
アダムとイヴが、禁断の果実を口にしたように、これは甘く甘い罪だ。
罪の意識があるのだから、自分は未だ大丈夫。
言い聞かせて、真っ白いベッドの上、忍足は景吾を組み敷いた。
『何だよ…忍足、なぁ…』
見えない相手は今、何を考えて、何を思っているのか。
不安げに問う。景吾の声は心なしか震えていた。
『俺、景吾が好きや…』
言って、胸板を撫でながらキスをする。唇は、甘かった。
長い間室内に籠もり切りの景吾の肌は、やけに白い。
特別運動をすることもできないから、身体は妙に薄っぺらい。
そんな景吾にその気は無くとも、忍足は欲情できた。
景吾の身体は、十二分に忍足を欲情させた。
『忍足…おし、たり…?嫌だ、なに、してんだよ』
『景吾かて俺が好きやろ?知っとるんやで、見たもん、俺の名前呼びながら、一人でしてたやんか』
途端、白い肌に赤みが挿す。
あからさまに動揺してみせる景吾すら愛しくて、忍足は思わず笑みに顔を歪めた。
『見てた、のか…?』
『ごめんな。ホンマは、見るつもりなんか、無かってん』
口付けと、言葉と。
愛撫と、欲情と。
景吾の身体に触れながら、忍足はそれだけでひどく興奮した。
息を荒げ、乱れる景吾に、あぁ、これを、この画を目に焼き付けて自分も光を失えたら、それはなんて素敵な。
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『おしたり、おしたりっ…なに、してんだよ…どこ、に…あッ、ぁ…』
目の見えない景吾は、不意打ちのように刺激を与えられる。瞳からは涙がこぼれていた。
忍足は、口に景吾の雄を銜えながら、必死に自身の尻の穴を掻き回していた。
痛い、痛い、痛い。けれど、早く、早く、早く、繋がりたい。
『景吾、も、もうすぐ…やでっ…』
慣らし方は、足りていないだろうな。それはわかっていた。
けれど忍足は景吾を跨いで、陰茎を掴んで支え、一気に腰を下ろした。迎え入れたい、早く。
『アァー―――ッ!あっ、はっ、あ、ア…』
犬のようだ、滑稽であった。しかし、本望だ。
漸く結ばれた身体、その繋がりは嫌な音をたて、光を失った代わりに他人より優れた景吾の聴覚を犯した。
濡れた音、やけに粘着質のあるような、その音。
そしてまるで天井から降るような、悲鳴のような忍足の喘ぎ。
頭がおかしくなりそうだ、景吾は思った。
『おしたり…、侑、士…ゆうし、ゆうし…‥』
忍足が腰を上下させるたび、景吾は切なげにその名を呼んだ。
目の見えない自分にも感ぜられる、この幸せな熱。
『景、吾…アァッ…ぁ、愛し、てる…好き…大、好きや…‥』
降り掛かる言葉は、声は、彷徨い歩き拾い歩いたどんな音より、自分に必要なそれであった。
久しく与えられなかった自分にも、与えることはできるだろうか?
忍足の体内に精を吐き出しながら、その時笑った顔が、景吾は、見えた気すらした。
次で最後
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夢を持てと励まされて。
夢を見るなと罵られる。
さて、俺は何処を目指すべきなのか。
自分の足元さえ見えていない俺に、夢なんか見れるはずがないじゃないか。
言った俺に、父さんがどんな顔をしたか、俺はそれだって、知らないのだ。
【光になれ】
坊っちゃんの世話を一切俺に任せてくれませんか?
クビにされるかもしれなかった。
忍足の賭けに近い提言に、景吾の父はひどく顔を顰めて、しかし小さく頷いた。
景吾の足には、跡の消えないひどい火傷がある。
目が見えなくなってすぐの頃、熱い風呂に無防備に足を突っ込んだらしい。
風呂を沸かしたのは、誰なのか、どの召使だったかなんて、景吾にはわからなかった。
その話を聞いてから、忍足は何かと景吾を気に掛けるようになった。
そして今日、提言が認められ、晴れて傍に付けるようになったのだ。
『ちゅうわけで、今日から俺、景吾だけの召使や』
昼を過ぎてもベッドに入ったままの景吾に、忍足はしかしとても嬉しそうに話し掛ける。
聞いているのかいないのかは、いまいちわからなかった。
『景吾、聞いとる?』
やや不満げな表情で問い掛けてみるが、やはり反応が無い。
心配になった忍足がベッドを覗き込めば、そこには景吾ではなく枕と景吾の飼い猫だけ。
布団の膨らみに、すっかり景吾がいると思い込んでいた忍足は驚愕だ。
毎朝顔を出していたのに、今日は旦那様と話していたから部屋に来ることができなかった。
景吾は自分を捜して、また屋敷をふらついているに違いない。
『何処行った、景吾…!』
屋敷内をひたすら駆けずり回る。
擦れ違う皆が振り返るのは、きっと自分が凄い顔をしているからだろう。
景吾はそんな視線すら感じることができない。
忍足は、走りながら胸が痛むのを感じた。
『夢を見るな景吾。今更何をしたところで遅い』
『夢を見てるわけじゃねェ。俺は俺の足元だって見えてない。夢だって見れるわけが…‥、ッ!』
親子の会話が聞こえる。ここは旦那様の部屋だ。
忍足は、辺りを見回してから聞き耳を立てた。
景吾の声が途切れると同時に、大きな音。嫌な汗が額を伝った。
『旦那、さま…‥』
『あれの世話はお前に任せたはずだが?しっかり頼むよ…仕事の邪魔だ』
持ち主の出ていった部屋に慌てて駆け込めば、大きな本棚を背に座り込む景吾がいた。
殴られて、倒れて、本棚に思い切り身体を打ったらしい。分厚い本がいくつも落ちている。
口の端から血を垂らしながら、景吾は、本のページを指でなぞっていた。
『景吾…‥』
『忍足、か。…点字の勉強がしたいって言ったら、夢見るなってよ。夢なんか見ちゃいねぇのに、目が見えるようになるなんて夢、見てるわけじゃないのに…』
だいたいこの辺りだろう。
名前を呼ぶ声のした方へ、景吾は感覚で顔を向ける。
綺麗な顔には傷ができていた。
諦め。
その言葉が最もよく似合うであろう、景吾の力無い表情に、忍足は決意するのだ。
愛を教えてあげよう、俺が。
彼は愛されなければいけない。
景吾の正面にしゃがみこんで、腕を伸ばした。
強く強く抱き締めて、自分より景吾の方が辛いというのに、涙が流れた。
君にはこの、頬を伝う小さな光さえ見えない。
俺が、大きな光になればいい。
その時光を~へ続きます
夢を見るなと罵られる。
さて、俺は何処を目指すべきなのか。
自分の足元さえ見えていない俺に、夢なんか見れるはずがないじゃないか。
言った俺に、父さんがどんな顔をしたか、俺はそれだって、知らないのだ。
【光になれ】
坊っちゃんの世話を一切俺に任せてくれませんか?
クビにされるかもしれなかった。
忍足の賭けに近い提言に、景吾の父はひどく顔を顰めて、しかし小さく頷いた。
景吾の足には、跡の消えないひどい火傷がある。
目が見えなくなってすぐの頃、熱い風呂に無防備に足を突っ込んだらしい。
風呂を沸かしたのは、誰なのか、どの召使だったかなんて、景吾にはわからなかった。
その話を聞いてから、忍足は何かと景吾を気に掛けるようになった。
そして今日、提言が認められ、晴れて傍に付けるようになったのだ。
『ちゅうわけで、今日から俺、景吾だけの召使や』
昼を過ぎてもベッドに入ったままの景吾に、忍足はしかしとても嬉しそうに話し掛ける。
聞いているのかいないのかは、いまいちわからなかった。
『景吾、聞いとる?』
やや不満げな表情で問い掛けてみるが、やはり反応が無い。
心配になった忍足がベッドを覗き込めば、そこには景吾ではなく枕と景吾の飼い猫だけ。
布団の膨らみに、すっかり景吾がいると思い込んでいた忍足は驚愕だ。
毎朝顔を出していたのに、今日は旦那様と話していたから部屋に来ることができなかった。
景吾は自分を捜して、また屋敷をふらついているに違いない。
『何処行った、景吾…!』
屋敷内をひたすら駆けずり回る。
擦れ違う皆が振り返るのは、きっと自分が凄い顔をしているからだろう。
景吾はそんな視線すら感じることができない。
忍足は、走りながら胸が痛むのを感じた。
『夢を見るな景吾。今更何をしたところで遅い』
『夢を見てるわけじゃねェ。俺は俺の足元だって見えてない。夢だって見れるわけが…‥、ッ!』
親子の会話が聞こえる。ここは旦那様の部屋だ。
忍足は、辺りを見回してから聞き耳を立てた。
景吾の声が途切れると同時に、大きな音。嫌な汗が額を伝った。
『旦那、さま…‥』
『あれの世話はお前に任せたはずだが?しっかり頼むよ…仕事の邪魔だ』
持ち主の出ていった部屋に慌てて駆け込めば、大きな本棚を背に座り込む景吾がいた。
殴られて、倒れて、本棚に思い切り身体を打ったらしい。分厚い本がいくつも落ちている。
口の端から血を垂らしながら、景吾は、本のページを指でなぞっていた。
『景吾…‥』
『忍足、か。…点字の勉強がしたいって言ったら、夢見るなってよ。夢なんか見ちゃいねぇのに、目が見えるようになるなんて夢、見てるわけじゃないのに…』
だいたいこの辺りだろう。
名前を呼ぶ声のした方へ、景吾は感覚で顔を向ける。
綺麗な顔には傷ができていた。
諦め。
その言葉が最もよく似合うであろう、景吾の力無い表情に、忍足は決意するのだ。
愛を教えてあげよう、俺が。
彼は愛されなければいけない。
景吾の正面にしゃがみこんで、腕を伸ばした。
強く強く抱き締めて、自分より景吾の方が辛いというのに、涙が流れた。
君にはこの、頬を伝う小さな光さえ見えない。
俺が、大きな光になればいい。
その時光を~へ続きます
『………‥、どなた、なんですか…?あれは…』
『あぁ、アレは気にしなくていい、アレはあのまま放っておけばいいんだ』
跡部という名家がある。有名な財閥であった。
その本家の家屋は、いや家屋と呼ぶにはあまりに大きな屋敷は、ひどく静かだ。
使用人もかなり少ない。
そんな家に、この冬雇われたのが忍足侑士だった。
館内を案内され、広い長い廊下を歩いていた際、壁伝いによろけながら歩む青年を見かけた。
恐らく、歳もあまら変わらないだろう、その、青年。
『……けど、なんや様子がおかしい……‥』
『放っておけと言ったら放っておけばいいんだ。お前はただの使用人だろう。深くかかわるな…』
釘を刺され、忍足は仕方なく口を閉じた。
『広すぎやん…、ホンマにここで働けんのか、俺…』
屋敷の案内と仕事の説明とで一日が過ぎた。
忍足は与えられた自室の簡素なベッドで息をつく。
そういえば腹が減ったな、何か食べにいこう。
キッチンに行けば飯が貰えると聞いた。朝、此処に来てから何も食べていない。時間はもう九時過ぎだ。
『飯めしーっと……、あ』
キッチンに向かおうと部屋を出たところで、忍足は昼間見かけた青年を、再び目にした。
相変わらずよろよろと、壁伝いに廊下を歩いている。
『あ、あの…、ええと、自分、大丈夫なん…‥?』
『…‥、聞かねェ声だな…誰だ、お前』
口を開いた青年は、少し言葉遣いが悪かった。
忍足の方に向けられた顔は綺麗で、忍足は、思わず息を呑む。
碧い目は、どこを見ているかわからない。
こちらに近寄ろうとしてまたよたつく青年に、忍足は慌てて駆け寄った。
その身体を抱き留め、声をかける。
『大丈夫か?!』
『悪い…。お前、新しい使用人か何か、か?』
問うた青年が忍足の腕を掴むその手は、ひどく、弱々しく震えていた。
そして碧い目は、やはり何処を見つめているか、わからなかった。
青年の名前は、跡部景吾。
名を聞いた忍足は目を丸くした。跡部の御曹司か何かなのではないか。
では何故、あのような扱いを受けているのか。
『自分、ここの坊っちゃんちゃうの…‥?』
顔を覗き込みながら問い掛ければ、碧い目がぎょろりと動き、こちらを見たように、見えた。
しかしそれはこちらを見ていない、あちらも見ていない、どこも見ていない。
何も、見えていない。
『俺はもう、要らないんだ…悪いが、部屋まで連れてってくれないか?』
景吾が光を失ったのは一ヵ月前だという。
言われるまま連れていった部屋は、荒れ放題。
絨毯の上に花瓶や本が転がっている。景吾は目が見えないのだから、躓いてしまうかもしれない。
忍足は、悲しそうに、辛そうに、顔を歪める。
『腹、減ってへん?俺、なんか持ってくるで?』
景吾をベッドに座らせ、荒れた部屋を片付け、忍足が声をかける。
景吾は慌てて首を振り、見えない相手を探すように、腕で空を掴んだ。
『行くな。行くなら、俺も連れてけ…』
一人は、恐いから。
景吾が、目も見えないのに屋敷を彷徨うのには、理由があった。
部屋でおとなしくしていれば、迷ったり、困ったりはしない。後ろ指さされたりだってしない。
しかし、食事を運ぶ以外に誰もやってこなくなった自分の部屋に一人でいるのは、恐いのだ。
音の無い世界は恐ろしい。
だから、他人の会話も、物音も、誰かが自分を蔑む陰口さえも、聞いていたい。
光を奪われた景吾は、音にすがるしかなかった。
目の見えない、使えない息子を親は愛さない。せめて、自分の存在が消えないように。
いつだって、どんなに転げたって、恐ろしくたって、屋敷を歩き回るのだ。
『久しぶりに、人と話したから…何、言えばいいか、わかんねぇけど…』
手を握って、黙って隣に座っていた忍足に、景吾が戸惑いがちに話し掛ける。
声には色が無いが、表情はどこか嬉しそうだった。
暖かい手が、自分の手を握ってくれている。隣に誰かがいる、自分の存在を、認めてくれている。
『ひどい親やな…。俺、今日からここで働くんや。時間見つけて会いに行く。せやから危ないことせんと、部屋におったらええねん、景吾』
『……ありがとう』
光を失った、景吾の暗闇に、一筋光が射した。
何もうつさないそこから、一筋涙が流れた。
【光の無い家】
光になれへ続きます。
『あぁ、アレは気にしなくていい、アレはあのまま放っておけばいいんだ』
跡部という名家がある。有名な財閥であった。
その本家の家屋は、いや家屋と呼ぶにはあまりに大きな屋敷は、ひどく静かだ。
使用人もかなり少ない。
そんな家に、この冬雇われたのが忍足侑士だった。
館内を案内され、広い長い廊下を歩いていた際、壁伝いによろけながら歩む青年を見かけた。
恐らく、歳もあまら変わらないだろう、その、青年。
『……けど、なんや様子がおかしい……‥』
『放っておけと言ったら放っておけばいいんだ。お前はただの使用人だろう。深くかかわるな…』
釘を刺され、忍足は仕方なく口を閉じた。
『広すぎやん…、ホンマにここで働けんのか、俺…』
屋敷の案内と仕事の説明とで一日が過ぎた。
忍足は与えられた自室の簡素なベッドで息をつく。
そういえば腹が減ったな、何か食べにいこう。
キッチンに行けば飯が貰えると聞いた。朝、此処に来てから何も食べていない。時間はもう九時過ぎだ。
『飯めしーっと……、あ』
キッチンに向かおうと部屋を出たところで、忍足は昼間見かけた青年を、再び目にした。
相変わらずよろよろと、壁伝いに廊下を歩いている。
『あ、あの…、ええと、自分、大丈夫なん…‥?』
『…‥、聞かねェ声だな…誰だ、お前』
口を開いた青年は、少し言葉遣いが悪かった。
忍足の方に向けられた顔は綺麗で、忍足は、思わず息を呑む。
碧い目は、どこを見ているかわからない。
こちらに近寄ろうとしてまたよたつく青年に、忍足は慌てて駆け寄った。
その身体を抱き留め、声をかける。
『大丈夫か?!』
『悪い…。お前、新しい使用人か何か、か?』
問うた青年が忍足の腕を掴むその手は、ひどく、弱々しく震えていた。
そして碧い目は、やはり何処を見つめているか、わからなかった。
青年の名前は、跡部景吾。
名を聞いた忍足は目を丸くした。跡部の御曹司か何かなのではないか。
では何故、あのような扱いを受けているのか。
『自分、ここの坊っちゃんちゃうの…‥?』
顔を覗き込みながら問い掛ければ、碧い目がぎょろりと動き、こちらを見たように、見えた。
しかしそれはこちらを見ていない、あちらも見ていない、どこも見ていない。
何も、見えていない。
『俺はもう、要らないんだ…悪いが、部屋まで連れてってくれないか?』
景吾が光を失ったのは一ヵ月前だという。
言われるまま連れていった部屋は、荒れ放題。
絨毯の上に花瓶や本が転がっている。景吾は目が見えないのだから、躓いてしまうかもしれない。
忍足は、悲しそうに、辛そうに、顔を歪める。
『腹、減ってへん?俺、なんか持ってくるで?』
景吾をベッドに座らせ、荒れた部屋を片付け、忍足が声をかける。
景吾は慌てて首を振り、見えない相手を探すように、腕で空を掴んだ。
『行くな。行くなら、俺も連れてけ…』
一人は、恐いから。
景吾が、目も見えないのに屋敷を彷徨うのには、理由があった。
部屋でおとなしくしていれば、迷ったり、困ったりはしない。後ろ指さされたりだってしない。
しかし、食事を運ぶ以外に誰もやってこなくなった自分の部屋に一人でいるのは、恐いのだ。
音の無い世界は恐ろしい。
だから、他人の会話も、物音も、誰かが自分を蔑む陰口さえも、聞いていたい。
光を奪われた景吾は、音にすがるしかなかった。
目の見えない、使えない息子を親は愛さない。せめて、自分の存在が消えないように。
いつだって、どんなに転げたって、恐ろしくたって、屋敷を歩き回るのだ。
『久しぶりに、人と話したから…何、言えばいいか、わかんねぇけど…』
手を握って、黙って隣に座っていた忍足に、景吾が戸惑いがちに話し掛ける。
声には色が無いが、表情はどこか嬉しそうだった。
暖かい手が、自分の手を握ってくれている。隣に誰かがいる、自分の存在を、認めてくれている。
『ひどい親やな…。俺、今日からここで働くんや。時間見つけて会いに行く。せやから危ないことせんと、部屋におったらええねん、景吾』
『……ありがとう』
光を失った、景吾の暗闇に、一筋光が射した。
何もうつさないそこから、一筋涙が流れた。
【光の無い家】
光になれへ続きます。
どどどパラレル
吸血鬼跡部と子供忍足
けど跡部はショタコンじゃないよ(笑
血が、足りない。
いつものように、跡部は夜中になって目を覚ました。
空腹、である。
きゅるきゅると、妙な音を立てて腹が鳴る。
元来白い肌は、白を通り越して青白くさえ見えた。月明かりはそれを助長した。
『腹、減ったな…‥』
小さく吐き出した声は、高い天井に響いて空きっ腹に響く。
冷えきった空間に白い靄が現れ、一瞬で消える。
俗世間は今、クリスマス一色だ。赤や白、色とりどりの明かりが街を飾る。
何百年と生きる跡部にはしかしそんなイベントも飽き飽きだ。
彼一人が住むにはあまりに大きな屋敷は、雪に真っ白く染まっている、それだけであった。
跡部は、そう、血を糧に生きる魔物であった。
吸血鬼。世の人々は彼を恐れた。
強すぎる力に、挑んだ男は皆死を与えられた。美しすぎる姿に、堕ちた女は、皆、簡単に食われた。
やがて彼は独りになった。
彼を打ち負かすべく挑む男はもういないし、彼の美しさに命まで捧げる女だっていなくなった。
鮮やかな聖夜に、彼は、独りきり、空腹を覚えた。
『はっ…はぁっ…!』
『何処だ、何処に逃げた!あのガキを探せ!!』
雪が、赤い煉瓦の道を覆っている。ザクザクと、裸の足が雪を踏みしめた。
小さな子供が一人、街の通りを全力で駆け抜ける。
小さな足跡を頼りに、数人の大人達が、子供を追っている。
途中から、足跡には赤く血が滲んでいる。子供の素足は、疾うに霜焼けになり、擦り切れていた。
『いやや…いややぁ…』
泣きながら走る子供は、この聖なる夜に、売られてきた子供であった。
金持ちの、玩具として。
金持ちの、奴隷として。
たまらず逃げ出した子供はしかし、雪の降る街に薄着で裸足。体力は、すぐに限界を訴えた。
倒れたのは、街外れの、雪に真っ白く染まった、彼の屋敷であった。
『死にたない…助けて…』
雪の夜は静かだ。
小さな声は、彼の耳にしっかりと響いた。
『死んでるのか…?』
屋敷の前に小さな身体が、ひとつ。跡部はそれを革靴の先でつついて、怪訝そうな表情で呟く。
『ん、うぅ…‥』
『生きてる、な』
僅かに身悶えて呻いた子供に息があるのに気付くと、跡部はその、数年ぶりの食料を抱き上げた。
こつん、こつん、こつん。
埃だらけの屋敷。硬い革靴の底が、階段を蹴る。
数十段。長い階段を跳躍する。たった三歩で、跡部は階段を登り切る。
ベッド代わりの棺桶に腰掛け、子供を抱き上げまじまじと顔を眺める。
『アァ?こいつ、男じゃねぇか…!最悪だ…』
長い髪に女だと勘違いした食料は、男だったらしい。
跡部はがっくりと肩を落とし、小さな身体を、無造作に、床に手放す。
6歳か、7歳か。小さな子供を、未だ納得のいかない様子で眺める。
ふと、子供が動いた。
『あ‥?ここ、何処…?』
目を覚ました子供‐忍足侑士‐が、辺りを見回す。
金色の眼と、視線がぶつかった。その色は、聖夜の空に静かに輝く、月の色に、限りなく似ていた。
『女みたいな髪してんじゃねぇよ。お陰で俺様は…』
『あんた、俺を助けてくれたんか?そうなん?』
言葉を遮られたことに跡部は苛立ちを感じたが、何百年と生きながら見たことのない、真っ黒い瞳やその髪に、少なからず、興味をそそられていた。
くいっ。
跡部が手招きすれば、小さな身体は浮かび上がり、棺桶に座る跡部の膝の上にゆっくりと下ろされる。
忍足は未だ金の瞳を馬鹿みたいに見つめている。
『男には勿体ない容姿だ』
『あんたも、な』
言って、跡部は初めて男の血を欲した。首筋の薄い皮膚に、牙を立てる。
忍足に抵抗する素振りはまるで無い。ただ、跡部のその胸にもたれて、静かに息をしている。
『腹が、へっているんだ…‥。長い間、独りでな…』
『お腹減るの、つらいやんな…俺、わかるで、それ。独りのつらさも、わかる』
こんな子供に何を話しているのか。跡部は思いながら、血を啜る。殺してしまわないように、なんて、初めて加減をした。
忍足は安心したように目を閉じる。夢に落ちる。
孤独と空腹。
二人が出会って、苦しみは二倍に?
いや、半分だ。
いつしか雪は止んでいた。
この小さな子供に、自分のような、長い長い命を与えようか。
長い間独りであった吸血鬼は、独りを恐れた吸血鬼は、雪の白い聖夜に、仲間を求めた。
黒い瞳が、金に、変わる。
吸血鬼跡部と子供忍足
けど跡部はショタコンじゃないよ(笑
血が、足りない。
いつものように、跡部は夜中になって目を覚ました。
空腹、である。
きゅるきゅると、妙な音を立てて腹が鳴る。
元来白い肌は、白を通り越して青白くさえ見えた。月明かりはそれを助長した。
『腹、減ったな…‥』
小さく吐き出した声は、高い天井に響いて空きっ腹に響く。
冷えきった空間に白い靄が現れ、一瞬で消える。
俗世間は今、クリスマス一色だ。赤や白、色とりどりの明かりが街を飾る。
何百年と生きる跡部にはしかしそんなイベントも飽き飽きだ。
彼一人が住むにはあまりに大きな屋敷は、雪に真っ白く染まっている、それだけであった。
跡部は、そう、血を糧に生きる魔物であった。
吸血鬼。世の人々は彼を恐れた。
強すぎる力に、挑んだ男は皆死を与えられた。美しすぎる姿に、堕ちた女は、皆、簡単に食われた。
やがて彼は独りになった。
彼を打ち負かすべく挑む男はもういないし、彼の美しさに命まで捧げる女だっていなくなった。
鮮やかな聖夜に、彼は、独りきり、空腹を覚えた。
『はっ…はぁっ…!』
『何処だ、何処に逃げた!あのガキを探せ!!』
雪が、赤い煉瓦の道を覆っている。ザクザクと、裸の足が雪を踏みしめた。
小さな子供が一人、街の通りを全力で駆け抜ける。
小さな足跡を頼りに、数人の大人達が、子供を追っている。
途中から、足跡には赤く血が滲んでいる。子供の素足は、疾うに霜焼けになり、擦り切れていた。
『いやや…いややぁ…』
泣きながら走る子供は、この聖なる夜に、売られてきた子供であった。
金持ちの、玩具として。
金持ちの、奴隷として。
たまらず逃げ出した子供はしかし、雪の降る街に薄着で裸足。体力は、すぐに限界を訴えた。
倒れたのは、街外れの、雪に真っ白く染まった、彼の屋敷であった。
『死にたない…助けて…』
雪の夜は静かだ。
小さな声は、彼の耳にしっかりと響いた。
『死んでるのか…?』
屋敷の前に小さな身体が、ひとつ。跡部はそれを革靴の先でつついて、怪訝そうな表情で呟く。
『ん、うぅ…‥』
『生きてる、な』
僅かに身悶えて呻いた子供に息があるのに気付くと、跡部はその、数年ぶりの食料を抱き上げた。
こつん、こつん、こつん。
埃だらけの屋敷。硬い革靴の底が、階段を蹴る。
数十段。長い階段を跳躍する。たった三歩で、跡部は階段を登り切る。
ベッド代わりの棺桶に腰掛け、子供を抱き上げまじまじと顔を眺める。
『アァ?こいつ、男じゃねぇか…!最悪だ…』
長い髪に女だと勘違いした食料は、男だったらしい。
跡部はがっくりと肩を落とし、小さな身体を、無造作に、床に手放す。
6歳か、7歳か。小さな子供を、未だ納得のいかない様子で眺める。
ふと、子供が動いた。
『あ‥?ここ、何処…?』
目を覚ました子供‐忍足侑士‐が、辺りを見回す。
金色の眼と、視線がぶつかった。その色は、聖夜の空に静かに輝く、月の色に、限りなく似ていた。
『女みたいな髪してんじゃねぇよ。お陰で俺様は…』
『あんた、俺を助けてくれたんか?そうなん?』
言葉を遮られたことに跡部は苛立ちを感じたが、何百年と生きながら見たことのない、真っ黒い瞳やその髪に、少なからず、興味をそそられていた。
くいっ。
跡部が手招きすれば、小さな身体は浮かび上がり、棺桶に座る跡部の膝の上にゆっくりと下ろされる。
忍足は未だ金の瞳を馬鹿みたいに見つめている。
『男には勿体ない容姿だ』
『あんたも、な』
言って、跡部は初めて男の血を欲した。首筋の薄い皮膚に、牙を立てる。
忍足に抵抗する素振りはまるで無い。ただ、跡部のその胸にもたれて、静かに息をしている。
『腹が、へっているんだ…‥。長い間、独りでな…』
『お腹減るの、つらいやんな…俺、わかるで、それ。独りのつらさも、わかる』
こんな子供に何を話しているのか。跡部は思いながら、血を啜る。殺してしまわないように、なんて、初めて加減をした。
忍足は安心したように目を閉じる。夢に落ちる。
孤独と空腹。
二人が出会って、苦しみは二倍に?
いや、半分だ。
いつしか雪は止んでいた。
この小さな子供に、自分のような、長い長い命を与えようか。
長い間独りであった吸血鬼は、独りを恐れた吸血鬼は、雪の白い聖夜に、仲間を求めた。
黒い瞳が、金に、変わる。
百合えろ注意!
『う……‥ぁ、あッ…』
『なぁ、そんなにイイの…?気持ちイイか?侑…』
双頭のバイブは可愛らしいピンクのスケルトン。色は跡部の趣味だ。
どうせなら二人で気持ち良くなりたい。
そう言いだしたのは忍足。自分はヘタクソだから、大好きな恋人をなかなか気持ち良くしてやれない。
ある時なんて、もういい、と言われて、そのあと風呂場でオナニーしている跡部を見てしまった。
その時は泣きたい気持ちになった。
跡部はあれでいて可愛らしいモノが好きで、ピンク色も好きだから、これを選んだ。
他にもブルーのものがあったけれど、これに決めた。
初めて、大人の玩具を買った。
久しぶりのお泊りで、これを使おう。きっと跡部も喜んでくれる。
そう思って、恥ずかしいのも我慢して、言ったのだ。
『これ、つこて…?』
そして跡部は、実物では初めて見る双頭バイブに興味津々で、喜んではくれているようだった。
けれどさっきから、バイブは忍足の方だけ激しく稼働していて、さらに跡部が腰を揺らすものだから、忍足は当初の目的を忘れて喘ぐしかなかった。
『けぇ、ちゃぁんっ!とめて、や、あっ、あっ』
『侑…すごい、可愛い…。もっと見せろよ…』
泣きながらに喘ぐ恋人があまりに可愛くて、跡部はうっとりした表情でさらに腰を揺らす。
恥ずかしそうにこんな玩具を持ち出した時には、その行動のあまりの可愛さに、軽く震えた。
『け、景ちゃんも…気持ちようならな…あかんの…』
『あたしは別に……、ちょっ、侑ッ…!っ、やッ!』
忍足が、ぐちゃぐちゃに濡れた股間がぶつかるそこに手をのばす。
二つあるスイッチの片方をぐっと押し上げれば、跡部の中に入り込んだ玩具がぐりぐりと首を振り動きだす。
『やだァ…!あっ、ゆ、侑ッ…ば、馬鹿…ぁっ』
『なぁ、けぇちゃんも、気持ち、えぇ…?』
ついさっきまで余裕を見せていた跡部が乱れだす。互いに自然に腰が揺れる。
嬌声。
水音。
モーター音。
また、嬌声。
跡部の部屋の高い天井に、色が付きそうなほど、甘く濃い空気が充満する。
見たことのない、ひどく乱れた跡部の姿に、当初の目的の通りのはずなのに、身体は興奮を感じているのに、忍足の心はどこか醒めていく。
なんだか、悲しい。
『景ちゃん…‥』
ずるり。まだ達していない、まだ欲しがる身体から玩具を引き摺り出し、スイッチを切る。
すぐに跡部の身体からも抜いてやった。
物足りない顔をして、怪訝そうな顔をして。そうしてこちらを軽く睨む跡部に、忍足泣きそうになる。
『何すんだよ、侑…気持ち良かったのに。侑もよさそうだったのに…』
『悔しいんやもん』
むっとして言った跡部だったが、泣きそうな様子の忍足にぎょっとして言葉を途切れさせる。
『うち、うちヘタクソやから…景ちゃんを、気持ちようしてやれへん。せやから…これ、使ったら、一緒に気持ちようなれる思うて…せやけど、お、おもちゃで気持ちよさそうにしとる景ちゃん見たら…悔しくて』
『侑&…まさか、これに、妬いたの……‥?』
自分で話したことなのに、改めて聞き返されるとなんて恥ずかしいの。
忍足は真っ赤になって、涙目で、小さく頷く。
跡部はにっこりと笑って、小振りの胸に忍足の頭を抱き込んだ。
『侑、すげぇ可愛い』
『け、景ちゃん…‥』
可愛い可愛いと繰り返す跡部。忍足はもっと恥ずかしくなって、ぎゅっと、柔らかい胸に頭を押しつける。
ちらと目を上げれば、視線が絡んだ。跡部が、決して忍足以外には見せない笑顔を向ける。忍足もそれにつられて、笑う。
『心配しなくていい。侑の気持ちだけでも嬉しいから…それに、侑はヘタクソなんかじゃない』
『ほんまに…?うち、ヘタクソやない…‥?』
跡部の言葉に、忍足の顔がぱっと明るくなる。
嬉しそうに、嬉しそうに抱き合って、玩具のこともすっかり忘れてキスをして。
大好きだから、気持ち良くしてあげたいの。
不器用だから、上手くはできないけれど。
貴女の、強気なところも、本当は可愛らしいところも、小さな胸も、大好き。
『景ちゃん、好きや』
『愛してる、侑…』
【快感ピンク!】
『う……‥ぁ、あッ…』
『なぁ、そんなにイイの…?気持ちイイか?侑…』
双頭のバイブは可愛らしいピンクのスケルトン。色は跡部の趣味だ。
どうせなら二人で気持ち良くなりたい。
そう言いだしたのは忍足。自分はヘタクソだから、大好きな恋人をなかなか気持ち良くしてやれない。
ある時なんて、もういい、と言われて、そのあと風呂場でオナニーしている跡部を見てしまった。
その時は泣きたい気持ちになった。
跡部はあれでいて可愛らしいモノが好きで、ピンク色も好きだから、これを選んだ。
他にもブルーのものがあったけれど、これに決めた。
初めて、大人の玩具を買った。
久しぶりのお泊りで、これを使おう。きっと跡部も喜んでくれる。
そう思って、恥ずかしいのも我慢して、言ったのだ。
『これ、つこて…?』
そして跡部は、実物では初めて見る双頭バイブに興味津々で、喜んではくれているようだった。
けれどさっきから、バイブは忍足の方だけ激しく稼働していて、さらに跡部が腰を揺らすものだから、忍足は当初の目的を忘れて喘ぐしかなかった。
『けぇ、ちゃぁんっ!とめて、や、あっ、あっ』
『侑…すごい、可愛い…。もっと見せろよ…』
泣きながらに喘ぐ恋人があまりに可愛くて、跡部はうっとりした表情でさらに腰を揺らす。
恥ずかしそうにこんな玩具を持ち出した時には、その行動のあまりの可愛さに、軽く震えた。
『け、景ちゃんも…気持ちようならな…あかんの…』
『あたしは別に……、ちょっ、侑ッ…!っ、やッ!』
忍足が、ぐちゃぐちゃに濡れた股間がぶつかるそこに手をのばす。
二つあるスイッチの片方をぐっと押し上げれば、跡部の中に入り込んだ玩具がぐりぐりと首を振り動きだす。
『やだァ…!あっ、ゆ、侑ッ…ば、馬鹿…ぁっ』
『なぁ、けぇちゃんも、気持ち、えぇ…?』
ついさっきまで余裕を見せていた跡部が乱れだす。互いに自然に腰が揺れる。
嬌声。
水音。
モーター音。
また、嬌声。
跡部の部屋の高い天井に、色が付きそうなほど、甘く濃い空気が充満する。
見たことのない、ひどく乱れた跡部の姿に、当初の目的の通りのはずなのに、身体は興奮を感じているのに、忍足の心はどこか醒めていく。
なんだか、悲しい。
『景ちゃん…‥』
ずるり。まだ達していない、まだ欲しがる身体から玩具を引き摺り出し、スイッチを切る。
すぐに跡部の身体からも抜いてやった。
物足りない顔をして、怪訝そうな顔をして。そうしてこちらを軽く睨む跡部に、忍足泣きそうになる。
『何すんだよ、侑…気持ち良かったのに。侑もよさそうだったのに…』
『悔しいんやもん』
むっとして言った跡部だったが、泣きそうな様子の忍足にぎょっとして言葉を途切れさせる。
『うち、うちヘタクソやから…景ちゃんを、気持ちようしてやれへん。せやから…これ、使ったら、一緒に気持ちようなれる思うて…せやけど、お、おもちゃで気持ちよさそうにしとる景ちゃん見たら…悔しくて』
『侑&…まさか、これに、妬いたの……‥?』
自分で話したことなのに、改めて聞き返されるとなんて恥ずかしいの。
忍足は真っ赤になって、涙目で、小さく頷く。
跡部はにっこりと笑って、小振りの胸に忍足の頭を抱き込んだ。
『侑、すげぇ可愛い』
『け、景ちゃん…‥』
可愛い可愛いと繰り返す跡部。忍足はもっと恥ずかしくなって、ぎゅっと、柔らかい胸に頭を押しつける。
ちらと目を上げれば、視線が絡んだ。跡部が、決して忍足以外には見せない笑顔を向ける。忍足もそれにつられて、笑う。
『心配しなくていい。侑の気持ちだけでも嬉しいから…それに、侑はヘタクソなんかじゃない』
『ほんまに…?うち、ヘタクソやない…‥?』
跡部の言葉に、忍足の顔がぱっと明るくなる。
嬉しそうに、嬉しそうに抱き合って、玩具のこともすっかり忘れてキスをして。
大好きだから、気持ち良くしてあげたいの。
不器用だから、上手くはできないけれど。
貴女の、強気なところも、本当は可愛らしいところも、小さな胸も、大好き。
『景ちゃん、好きや』
『愛してる、侑…』
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プロフィール
HN:
詩子
年齢:
37
性別:
女性
誕生日:
1987/08/13
職業:
学生
趣味:
買い物・音楽鑑賞
自己紹介:
小説や日記、小ネタ等を投下していくヲタクなブログです。サイトの代わりに運営しているのでコメントやメッセージは大歓迎です。
リンクについては同人サイト様につきフリー。報告や連絡いただければそちらにも遊びにいきます♪
コメントするのが嫌だわ、というシャイなお嬢さんは(笑)
utagawa_hikaru☆hotmail.com
(☆を@に変えてくださいね)
こちらまでご連絡ください!
ジャンルはサイトをやっていた頃とほとんど変わりませんが…
テニス(忍受け、跡受けなど)
サガフロ(いろいろ)
もしかしたらアイシ(阿雲)
オリジ(気が向けば)
…こんな感じです。
同志様は是非仲良くしてください!
何かありましたらお気軽にご連絡を。
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テニス(忍受け、跡受けなど)
サガフロ(いろいろ)
もしかしたらアイシ(阿雲)
オリジ(気が向けば)
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